“千葉医学”135年余もの長きにわたり受け継がれてきた、医学の伝統と誇り

獅胆鷹目行以女手

"獅胆鷹目行以女手" は、「したんようもく おこなうに じょしゅをもってす」と読みます。

この教えは、千葉大学医学部の外科学の祖とされる三輪徳寛(1859-1933)が、医員ならびに学生の教訓となるべき格言として残した言葉がもとになっています。臓器制御外科教室(旧第一外科学教室)には、現在でも同門の佐藤豊三郎が寄贈した書家の松平穆堂の筆とされる獅胆鷹目の書が掲げられています(下図)。

shitanyoumokuimg.jpg(16708 byte)
三輪徳寛
三輪徳寛(1859-1933)
千葉大学医学部、外科学の祖
千葉医科大学初代学長
(1923-1924)

この言葉が表す「獅子のように細心にして大胆且つ動じない胆力、鷹のように諸事を見通し、判断、解決できる眼力、女手のように臓器を柔らかく扱い緻密に行える手技」という教えを支えに、多くの学生、医師が修練を積み、秀でた外科医となってきました。そして今なお、この教えを多くの学生が千葉大学医学部で学んでいます。

外科臨床講義ではこの教えが外科手術室(臨床講義室)の壁に大きく壁書きされ、学生は臨床講義の内容を忘れてもこの書だけは忘れ得ぬこととして日々意識され続けてきたと言われています。

外科手術室(臨床講義室)
*
「獅胆鷹目 行以女手」の由来は三輪德寛の残した文書によると(註1)、ドイツ語の”Ein Doktor muss ein Falkenauge, ein Jungfernhand und ein Lowenherz haben.”(医師は鷹の目,娘の手,ライオンの心を持つべし。)、さらにそのオランダ語の原典であろうとされています(註2)。これがシーボルトにより日本に伝えられ、漢文に堪能な弟子等により「獅胆鷹目 行以女手」の名訳が生まれたのではないかと推察されています。同様の言い伝えは古く16世紀イギリスの外科医John Halle(1529-1568)の次の言葉(註3)に見られます。“A surgeon should have ... three diverse properties in his person, that is to say, a heart as the heart of a lion, his eyes like the eyes of a hawk, and his hands as the hands of a woman.” いずれにしても古くから同様の言い伝えが広くヨーロッパに流布していたものと思われます。
註1
三輪德寛 『「獅膽鷹目行以女手」ニ就イテ』千葉醫學會雜誌 5 (10), pp.1469-1471,1927 (http://jairo.nii.ac.jp/0007/00022115)
註2
http://www.zeno.org/Wander-1867/A/Doctorの第19項目:Karl Friedrich Wilhelm Wander (1803-1879) Deutsches Sprichworter-Lexikonに収載された“Een valken-oog, een leeuwenhart en eene jufferhand is den medecinmeester noodig.” (Harrebomee, II, 357.) 年代から考えて、註1の文献の中で、三輪德寛がドイツで買い求めたとある本はこれであると思われる。
註3
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1442-2034.2000.00029.x/pdf
ページの先頭へ